影法師

自分が読んだ本の感想を書くブログです。
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「悪の物語」の総括
このアンソロジーを読み終わったね。
実はもうひとつ、ボードレールの詩もあるのだけど、詩の感想なんて書きにくいので省きました。

悪人度チェックでは、

10……南子夫人(麒麟)
9……殉教者製造人
8……父親を殺した男(死の家)
   ミス・スペンサー(ジョコンダの微笑)
7……石川五右衛門
   敬夫(絢爛の椅子)
6……クリック(クリックとクロック)
   セルヴィン(セルヴィン事件)
   ブッチ(ブッチの子守唄)
5……ユダ(駆込み訴え)
   マーカイム
   ダーダー
3……トレーヴァ(破壊者)
   ウンデン(セルヴィン事件)

ということになりました。
これはあくまで自分の感想なので、評価する人が変われば順位も変わるでしょう。

もっとも感銘を受けたのは、スティーブンソンの「マーカイム」
これは是非とも「ジキルとハイド」とか「宝島」を読まなくてはいけないと思ったわね。
悪のアンソロジーにおいて谷崎潤一郎は連覇ならず。残念。
「絢爛の椅子」も良かったし、「ジョコンダの微笑」も「石川五右衛門の生立」も良かった。
太宰の「駆込み訴え」も読む人が変われば、大きな感銘が得られるはず。

「死の家」は別格ですなあ。
いつか監獄ミステリーツアーとかの企画を立て、東西の監獄小説をいろいろ読みたいなあ。
その意味でも、ソルジェニーツィンの「収容所群島」なんかは、将来必ず読んでみたいと思っているのだが、
あんだけ長いと、いつも尻込みしてしまうんだわ 
死の家
死の家     ドストエフスキー/小沼文彦・訳

この物話は、長編「死の家の記録」の第一章
このアンソロジーの最後は、ドストエフスキーです。
実際にシベリアに流刑されたドストエフスキーの自伝的作品で、獄舎の出来事を描いている。
その獄舎がどういうところなのかというのが、真に迫って描かれているのだが、要約は不可能だわね。

獄舎内では、どんなことにも驚かないことが最大の美徳とされ、いかに殺したようなというような会話が普通にされている。
作者は、こういう男たちの中に、自分が犯した罪に対し、悔い改めるという気持ちがないことを驚く。
獄舎内においては、手仕事が行われ、その手仕事がないと囚人たちの精神に異常をきたすとも語られる。

最後で、このような獄舎においても、ロシアの最下層の人たちからなんらかの施しが与えられる。作者は少女から銅貨を恵んでもらう。作者はこの銅貨を長らくとっておいた。

・ さあ、「不幸なおじさん」、キリストさまのためにこのお金を取ってちょうだい。

この一章の後、かなり長い物語があるのだよね。
さすが文豪。超ど級の読み物だ。


悪人度チェック。
誰が該当するのだ
父親を自分の遊蕩の為に殺し、そのことを悔い改めない男を該当させようかね。
8くらいにしておこう。
麒麟
麒麟       谷崎潤一郎       明治四三年作


この小説は、孔子さんが出てくるね

故郷の魯国を出立した孔子一行は、衛国にやって来た。衛国は豪華な宮殿が築かれている一方、民が悪政に苦しんでいた。孔子は、その高名を伝え聞いた衛国の霊公に我が国に仕えようと勧め、良き政治を行うことを聞きたがった。孔子は霊公を導いていったのだが、そのことに面白く思わなかった悪政の原因の南子夫人は、なんとか霊公を元に戻そうとして、その試みは成功し、孔子一行は衛国を去った。

ということでいいのかな
この小説は、漢語体で書かれているのだけど、読みやすいし、面白い。
書かれている内容が、不道徳的じゃなかったなら、教科書に載ってるに違いないわね。

結論は、孔子さんの道徳も、色気には形無しだったというだけの話なんだけどね

最後、論語にも書かれている

我未だ徳を好むこと色好むが如くなるものを見ざるなり。

と書いているのは、そういうことがあったからなのかと納得。


悪人度チェック。
ちくま文学の森「悪いやつの物話」において、最も感銘を受けたのは、谷崎潤一郎の「或る調書の一節 -対話」だった。
悪人の心情を描いた傑作で、これこそ文学の力だなあと思ったわね。この「麒麟」も素晴らしいわね。谷崎潤一郎って本当に悪人を描くのが上手い。

南子夫人は最高評価10にしておこう。
おぬし悪人じゃな
という言葉がよく似合うね。

駆込み訴え
駆込み訴え       太宰治        昭和十五年作


この小説は、誰かの訴えなんだろうと思って、何やら分かり難い話だなあと思っていると、途中でイエスキリストを裏切ったユダの独白だと分かった。

なので内容は、なぜ自分は主を裏切ったのかという心情が綴られていた。

こんなもの、どう論じればいいのだ。

自分は主キリストにこれだけ使えているのに、あんたは私に冷たい。他の人より私は、多く尽くしているのに、そういう違いを何故あなたは分からないのか、とかとか
愛しているからこそ、些細なキリストさんの行いに一喜一憂して、ユダさんの心情は大きく揺り動く。最後には裏切りを犯してしまう、そのことで金銭を手にしたときも、そういう目的で裏切った訳ではないのだが、裏切りが商人の手口を使ったものであり、これも一種のビジネスなんだと心の逃避する

悪人度チェック。
悪人なのかね、卑怯者なだけじゃないか。
卑怯者も悪人に入れるのかな。その卑怯というのも、心が絶えず揺り動き、自分は弱いということを自覚し、そういう自分の弱い心情を理解していたからこそ、イエスキリストに弟子入りもしたとも言える。
なので、どれだけ悪人なんか分かりませんわい。5くらいにしておこう。
もっと罪悪人という声もありそうだが、こういう告白することをするのだから、そんなに悪い人ではないよね。
殉教者製造人
殉教者製造人    マントー/片岡弘次・訳


この物語の語り手が主人公で、彼は自分のやって来た来歴、これからするべきことを語った。その男は麻薬の密売をしていたのだが、そのうち口達者のこともあり、それ以外の儲け口で一財産を築き上げた。いざ財産を作り、嫁を貰ってみると、自分の心の中に空白があることを知り、善行を積んでみた。いろいろ人の助けをしてみて、その行いを受けた人を観察してみると、人の願望は多様で、そのすべてをかなえることは不可能だと知った。ある時デモがあった時に混乱が起こり多数の死亡者がでた。翌日の新聞でそこで亡くなった人を殉教者と書いているのをその男は見た。男は、不慮の死が殉教となるのだというならば、死を迎えようとする人に、死を訪れ易くしてやることが、最大の施しなのだという考えに至った。そこで、この男は古い屋敷を買い取り、宿無し人を招き入れ、そこに雨が降って多くの人が屋敷の屋根が落ち、多くの人が亡くなったことを喜び、さらに屋敷を建築させ、途中でその屋敷が崩れるように設計して、また多くの人を殉教させることができると思ったのだった。

この男は、静かに狂っているわね。
以前にも書いたように、人間の自然な感情が何処か欠落しているわね。
彼にとって、善悪の観念が欠落しているということだし、そういう男を生んだ土壌に貧困があるということなんだろうね。

それと、人はなんで生きるのか、というのはその人が人生の最後の一日まで懸命に生きるからこそ意義があるのであって、殉教して天国に行くために生きているわけではないわね。

この話も「デスノート」や「ファウスト」とかの最後の結末にも通じるものがあるかも

ファウストにおいて、数々の悪行を積み、最後にその魂が悪魔に持って行かれるところで、救いがあるのは、最後の最後まで、良く生きたということがあったからであって。
天上界では、その人生が長いか短いか、善を多く為したか。悪行を積んだかというのと違った判断を下されるところだということなんだろうかね。
なので、死にかけているからといって、それを幇助することが、本当に良き行いかどうは分からないとも言える。
「デスノート」のライトが最後まで、観念の世界に縛られているのは、凄く滑稽であって、短い人間の生の限界を示しているに過ぎないと言えるかも
この作品の最後が薄ぺらく感じた人は多かったのでは

悪人度チェック
この男は、かなりの悪人と言えそうだ9くらいかな。
まだまだ修行が足りない自分には、とんでもない悪人が沢山いるみたい。
もっと悪人については知りたいわね。
ただし怖いのは苦手なんですけどね
セルヴィン事件
セルヴィン事件    チャペック/栗栖継・訳


ノーベル賞を受賞したこともある大詩人ウンデンが、過去の自分に起こった出来事を諧謔的に反省した。昔ウンデンは、老婦人の訪問を受けた。その夫人の息子が無実の罪で逮捕され、有罪になろうとしているとのことであった。ウンデンは同情し力になってやろうと言った。実際裁判を傍聴したとき、確実な証人、証拠もないのに、国撰弁護人はしっかり弁護しようとせず、おざなりに判決が下されてしまった。ウンデンは正義心にかられ、無実の若者を救うために、あらゆる手段を使い、司法制度そのものとも戦った。が、裁判所はそのような動きに硬化し、その若者の上告は棄却されてしまった。この裁判の根拠になった証人が亡くなるとき、暗闇だったのでその若者だったとは言えないという証言をしたこことにより、裁判は再審され、若者は無罪になった。無罪解放後、その若者がウンデンの下にやって来て、実は自分がその犯罪をしたのだと告白した。ウンデンは、彼の名声を楯に取られ、その後しばらく強請られた。

よくありそうな話だわね。
悪人度チャックは、この若者とウンデン共にノミネートだね。
でも悪人度は高くはないかも。
若者は悪人としては小者だし、ウンデンもこのような過去を告白して悔い改めているのだしね。それぞれ6と3くらいにしておこう。
さっぱり分かりませんね
ダーダーと呼ばれた女
ダーダーと呼ばれた女    マストゥール/鈴木斌・訳


ダーダーはある時、真夜中に不審者と思われて尋問してきた警官を殺してしまい、裁判によって収監された。このダーダーと呼ばれた女は、幼少時から両親に嫌われ、嫁ぎ先でも姑との折り合いが悪く、その赤ん坊を取り上げられて嫁ぎ先を追い出された。出産時姑が産婆を呼んでくれず、もう赤ん坊を生めない体になっていた。そこから更に落ちぶれ盗人の相棒となった。その相棒からもしまいには愛想を尽かされていた。
刑務所でもダーダーは我が者顔で過ごしていあたが、年数が経つにつれ、同じく収監された囚人をかばったりすることで、それなりに馴染んでいった。そこに赤ん坊を抱いた女囚が新しく入ってきた。ダーダーは、ある日その女の心の支えであったその赤ん坊と心中してしまった。


これは、悪というより、社会が、ダーダーにもう少し思いやりのある態度で望んでいれば、ダーダーはそういう人間にならなかったのではないか。というようなことを投げかけているね。
貧困と、社会の女性蔑視などが悪を作り出すということを訴えているように思うわわね。

悪人度チェック。
それでも、元の人性がダーダーは余り良くないみたいなので。5くらいなのかな
ジョコンダの微笑
ジョコンダの微笑    A・ハックスリー/太田稔・訳


ジョコンダの微笑とは、モナ・リザの微笑のことらしい。

この話の要約は、難しいねえ。

ハットン氏は、体の弱い妻を持った身でありながら、若い愛人を持ちそれなりに、人生を楽しんでいた。隣家のオールドミスのミス・スペンサーに密かに好かれているのを知りながら、皮肉の意味で、彼女のことをジョコンダの微笑と呼び。ミス・スペンサーがそのことを褒め言葉に取っているのを、陰であざ笑っていた。
ある日、ミス・スペンサーと妻とハットン氏が昼食を一緒に取った後、ハットン氏は愛人との逢瀬に向かった。帰ってきたとき妻が急死していた。ハットン氏は、このことで自分の人生を一旦悔い改めてやり直そうとしたが、愛人からの手紙受け、実際愛人に会ってみると、道徳的な生活をする意志を失った。そこでミス・スペンサーから、熱烈な求愛を受けるが、ハットン氏は袖に振った。ハットン氏がイタリアに愛人と旅行中、病死したはずの妻を殺害したとの罪で訴えられた。元妻は鑑定の結果、砒素中毒で亡くなっていたと証明されて、ハットン氏は追いつめられていった。
刑の執行後、ハットン氏の妻の死に立ち会った医師が、ミス・スペンサーにあんたが毒を盛ったのではないかと尋ねると、その通りだと答えた。


長々と書いてしまったが、この小説はミステリーかも知れないので、いけなかったのかな
指摘があれば、削除します。

ハットン氏は、人生をそれなりに楽しみ、世の中をよくしていこうという意志もあり、それなりに優秀な人で、ミス・スペンサーの性格も、自分が好かれているという事実も知っていた。
わざと好かれているかのように行動し、実際好かれていたことを観察して楽しんでいた。
ハットン氏の間違いは、ミス・スペンサーがそこまで無茶なことをしないだろうということが分からなかったことだね。

ミス・スペンサーはハットン氏を愛していなかったかも。
自分の求愛を受け入れられなかったなら、破滅させてしまえということですね。

悪人度チェックは、怖いので8くらいにしておきます。
絢爛の椅子
絢爛の椅子     深沢七郎     1959年作


この話は、

敬夫は父親が収監されており、父親が罪を認めて自白するのが、いけないのだと誤った考えを持っていた。敬夫は自分ならけっして自白などしないと考えていた。ある時試しに自転車ですれ違い時に、乗っていたいた女性を捕まえて絞殺してしまった。動機、証拠を残していないことから、事件は迷宮入りし、そのことで更に考えるところのあった敬夫は、夜間学校の同級生を呼びだして殺した。その後それでも、なかなか事件の発覚、犯人の行方は警察もマスコミも全くつかめなかった。敬夫は、尊重になり、マスコミに自分が犯人だと電話し、大きな反響を世間に呼び起こした。敬夫は公衆電話における目撃者と、電話したものを録音されたところから、敬夫が犯人と分かってしまい、逮捕された。
敬夫は、厳しい取り立てで、もう自白せざるえないようになったと思い、優しそうな警官に自白しようとしたところ、先に捕まっていた父親が、その警官は実は悪い奴で、敬夫が悪そうな警官と思っていた警官が、最後の裁判まで面倒をみてくれる良い警官なんだと言った。


この物語は、悪というものを考える良い素材を提供しているね。
大変良くできた小説だ。

悪というのは、どういうものなのか、
というのを、この物語に沿って考えていくと、
それは人間の本来ある感情の何処かが欠落した状態なんだというのが分かるかも。
ほとんど正常に見えて、賢い人であり、物事を熟知しているかのように見えて、絶対普通の人がしないような、思いつかないことを、自然に出来てしまう。
悪が悪らしい、見るからに悪というのではなく、どこかちょっと狂っているというのが、不気味だし、怖いものだ。
そういうように日常に悪が忍び込んでくるのかも

これなんかは、青少年に大人気の「デスノート」なんかにも、当てはまるのかも。
主人公のライトは、大変優秀な人物で。大きな気持ちで人類のことも考えているけど、何処か欠落しているもんね。

悪人度チェック
敬夫は、悪人としては、そういってもまだまだ駆け出しかも
なので7くらいにしておこかな

破壊者
破壊者     グレアム・グリーン/青木雄造・訳   1954年作


第二次大戦後の空き地を仕切っていた不良グループにトレーヴァことTという新参者が入った。あるとき二人一組ずつ無賃乗車することをしようとしたとき、Tは先の大戦後の空襲で倒壊を免れた建物を、そこに住んでいるトマスじいさんが不在の間に跡かたもなく倒してしまうことを提案した。不良グループに者どもは、グループの名声が上がると賛成し、早速じいさんが不在の間、食料、大工道具を持ち込んで建物の破壊に勤しんだ。
じいさんが予想より早く帰ってきたので、じいさんを騙し離れの小屋に閉じ込め、。翌日まんまと建物の倒壊に成功した。


イギリスの不良少年たちは、剛毅だねえ
建物を破壊させてしまうのだもんね
彼らは、方向性がおかしいけど、じいさんに対しては紳士的に対応するし、じいさんのへそくりを見つけても、それを燃やしてしまったりと、
一種の法則に従って規律をもって行動している。
どこかユーモラスさがあるのが不思議なところ。

悪人度チェック。
悪童であるが、彼らは悪人なんかなあ
違うような気がする。
3くらいにしておこうかな。