所有せざる人々 :アーシュラ・K・ル・グィン 訳:佐藤高子 早川書房
一章づつ取り上げていたのでけど、書きずらくなったのと、本当に歯ごたえがあり過ぎる物語なので、そのまま放置しておいた。
さすが、そのままではまずいので、全体の感想も少し書いておきます。
自分の手には余ります。正当な評価はSFファンに任せたいです。
これはあくまで自分がこう感じたという備忘録です。
この小説は、ウラスとアナレスという二重惑星が舞台で、交互にウラスとアナレスでの主人公の物理学者シェヴェックの行動、考えを描いた小説。
発表が1974年。東西冷戦時の頃に書かれたもので、実在のモデルとして、ウラスは西側諸国、アナレスは東側諸国と見て取れるわね。作者がアナレス側を好意的に描いているのは時代のせいもあると思う。
ユートピア小説で、ウラスは過去に離れ、アナレスに理想の社会を築いて旅立った子孫シェヴェックが、ウラスに来てみると、富に恵まれ、一見優しい人々との応答、そしてその美しい景色とかに、安らぎを覚えるのだが、その富の下に隠された虚偽を発見し、そのことを見つめているうに堪えられなくなり、最後はアナレスに帰る選択をする。
アナレスを描いた章では、貧しくけっして恵まれている訳でもなく、研究以外のことに度々狩り出されているのだが、それでもアナレスを選択する。
それを、これでもかこでもかと様々の人との対話で炙り出していく。
理想社会とは何か、その社会でどう生きる意義を見出していくのかというのを真摯に問い直している。
・ 真の旅は帰還である。
そのままだったわね。
同じユートピアを語った物語としては、宮崎駿先生の「風に谷のナウシカ」なんかもそうだね。あの映画の原作マンガは哲学的で分かり難いので余り論及されないのだが、結論は、この小説とはだいぶ違っているわね。日本人としてはナウシカの結論は、心の底から共感を得るものなんだけど、そこで議論は終わってしまうようなところがある。
この小説の結論は、一見分かりやすそうであるが、それでいいのかいと言ってしまえるわね。まだまだ議論しておくべき余地を残すような終わり方で、これは物事を考える素材としてはこっちの方が優れているかもね。
まだ本当のユートピアは見つかっていないのだもんね
それを言っちゃ、ナウシカも見つからなかったじゃん。と言えますが、あれは見つけること自体を否定する結末だったのではないでしょうか。
・ この豊かで、実在する、安定した現在、今という一瞬しかないのだと。そして、それは所有され得るなにかだと考えておられる! そしていささかの羨望を感じておられる。あなた自身が手に入れたものだと思っておられる。しかし、それは架空のものなのですよ。それは恒久不変のものではないのです。 ー恒久不変ものものなどこの世にはありません。物事はどんどん変化していきます。