スペイン要塞を撃滅せよ フォレスター/著 高橋泰邦/訳 早川文庫
このシリーズでは二番目の話で、ホーンブロワーの海尉時代。つまり下士官として活躍する話だね。
このシリーズ後半共にするブッシュが、先輩海尉といして同じく乗船しているレナウン号でホーンブロワーに出会う。
先輩、後輩という枠組みを越えて、当初から運命的なものを両者感じあっていたみたい。
この巻は、ブッシュの視点から述べられていて、端から見るホーンブロワーという男が、実に創意工夫に富み、勇気のある、そして謙虚、というより自分を不当に蔑ろにしている男として写っていたみたいだ。
とても複雑だけど、気持ち良い奴だとね
ブッシュにとって、このような男に出会ったのは始めてで、ホーンブロワーに強く惹かれる。
そこに嫉妬というものより、どうしてこういうことが出来るのかという憧れみたいなものを感じてしまうのが、おかしいところだね、
他者の優れたところを、素直に容認できるところに、ブッシュが傑出した人物だった証なのかも、
レナウン号における艦長が、実に厭らしい男で、下士官たちを蔑ろしする、その中でもホーンブロワーは目の敵にされる。そういう艦の雰囲気は、ブッシュの目からすると
・ この艦には、身の危険を冒してでも断固とした意見を言う者がいないのだと、暗澹たる思いだった。
そこで下士官たちが、謀議して艦長をなんとかしてやろうという話をする。
そこは実に面白いね。
英国海軍では、無能な上司をうっちゃっても、あとの軍法会議で申し開きを上手くすれば、なんとかなるという考えなんだろうかね。
こういうところは風通しがよいわね。
英国海軍においては、無能というのが、最大の罪なんでしょうか。
ここが、この本が日本の指導者にそれほど熱く支持されないところなんだろうか。
状況が揃えば下克上容認なんだもんね。
この軍法会議では、船員たちの意見も優先される。実に民主的だね。
英国海軍の底力は、こういうところにあるのでしょうかね。
この巻の途中で、艦長が階段から落っこちて重傷を負う。(この原因は不明)
そこで副官が艦長になって、この艦に密かに与えられていた密命に沿って、スペイン要塞の攻略に乗り出す。
真っ正面から立ち向かうが、敢えなく惨敗。
その後ホーンブロワーの意見を入れ、奇襲を決行することになる。
下士官からの大胆な意見に快く思わなかったこの臨時艦長は、ブッシュを奇襲隊を指揮させることにする。
ブッシュは、そこに連れて行く人材に、ホーンブロワーを指名する。
ホーンブロワー自身出過ぎた提案をしたことで、この奇襲隊への参加を自身諦めていた。
内心参加したくて仕方なかったのだが、ここに彼の謙虚過ぎる性格、自分を蔑ろにし過ぎる上に、他人に所詮は自分は認められないという諦めがあった。
そこに思わぬ光明が
・ 冷静な判断の結果でもなく、もっと他の理由からきたものだった。
親切心とも情愛とも言えた。彼はだんだん、この快活多才な青年を好ましく思うようになっていた。彼の肉体的な勇気についても疑いはない。
「ミスター・ホーンブロワーを連れていきたいと思います。」
ここで自分は泣いた。男の友情というか、情愛に、二人の終世の繋がりができた瞬間だね。
その奇襲は成功。
ホーンブロワーは、ここで信じられないくらいの活躍をする。ブッシュも驚くくらいだ。
その活躍が認めら新任艦長に任命される。
ここでも、ブッシュが正当にその報告をしたからそうなったのだ。
ブッシュには後輩に遅れを取って悔しいとかの嫉妬心はない。
そこでホーンブロワーは新任艦長として去る
そして戦争が終わり、イギリスで休職中のブッシュは、艦長の座も実は認められなくて、休職手当も貰えず、酒場で賭けゲームをして食っているホーンブロワーに再会する。
どん底の中のどん底。
ここにこのシリーズ全体を貫くテイストがあるわね。
運よくそうなったとか、順番待ちして地位を手に入れるということをホーンブロワーにさせない。己の力で上がっていかなくてはいかない。
逆境で、助けてくれる者がほとんどいない状況。幸運よりも不運ばかりに見舞われるとしても、立ち上がらなくてはいかない。
真の男の世界は厳しいのだ。
最後に再び戦争が、ホーンブロワーは艦長として召集される。
・木造の帆船を指揮するのに必要な、無数も細かい実務に精通すること。艦の操船ができるというだけでなく、索具やケーブル、ポンプや塩漬けの豚肉、木材の腐朽や陸海軍条例にも通じていることー それが必須の条件なのだ。しかし、その他にも同じく必要な条件があることも、いまの彼は知っている。大胆不敵だが思慮深い率先力、心身の勇猛さ、上官と部下の両方を巧みにあしらう手腕、鋭利機敏な思考力などだ。戦う海軍には戦いがなくてはならないし、それを率先指揮する戦士がいなくてはならない。